病気になったら、ごはんはどう変える?|犬猫の疾患別・食事の考え方
「腎臓病なら低タンパク」「心臓病なら塩分を減らす」「糖尿病なら糖質を抜く」——病名を聞くと、食事で“何かを減らす”ことを思い浮かべるかもしれません。
けれど、疾患別の食事管理は、単に一つの栄養素を抜くことではありません。減らしたい栄養素、しっかり確保したい栄養素、水分、カロリー、消化性、実際に食べられる量、筋肉量までを、ひとつの食事として考えます。同じ病名でも病期や検査値、体型、食欲、合併症で答えは変わり、犬と猫で同じ管理になるとも限りません。
この記事では、よく相談される8つの疾患を入口に、「何を抜くか」だけで決めない食事の考え方を整理します。療法食は薬の代わりではありませんが、疾患によっては治療の大切な一部です。自己判断で切り替えず、主治医と相談するための地図としてお読みください。
(持病が複数ある子、療法食や薬を使っている子は、食事変更が治療に影響します。必ず獣医師の指示を優先してください。)
最初に|疾患食は「○○を抜く」だけではない
疾患別の食事では、制限の話が目立ちがちです。でも本当に見たいのは、次の全体です。
– 何を減らす必要があるか
– 何を不足させずに確保したいか
– 必要なカロリーや水分をとれているか
– 筋肉を維持できているか
– その子が無理なく食べられるか
腎臓病と膵炎、心臓病と腎臓病、糖尿病と肥満のように、持病が重なると優先順位はさらに複雑です。「疾患にいい食材」だけで決めず、食事全体で何を目指すかを主治医と決めることが、療法食の出発点です。
WSAVA(世界小動物獣医師会)も、病気や食欲の変化、体重・筋肉量などを含めた個別の栄養評価を重視しています。体重だけでなく、筋肉が落ちていないかを見ることも大切です。
「○○病=○○を減らす」と覚えないで
- 腎臓病=とにかくタンパク質を減らす ×
- 心臓病=塩分をゼロに近づける ×
- 肝臓病=とにかく低タンパク・低脂肪 ×
- 膵炎=犬も猫も同じ極端な低脂肪 ×
- 糖尿病=炭水化物を完全になくす ×
- 尿路結石=尿を酸性にすればいい ×
- 慢性腸症=低脂肪だけにすればいい ×
- 食物アレルギー=とりあえずグレインフリー ×
疾患名は、考え始めるための入口です。病期、検査値、尿の状態、食欲、筋肉量、体重、治療内容まで見て、初めて食事の方向が決まります。
腎臓病|低タンパクだけではなく、リン・カロリー・水分

慢性腎臓病(CKD)で特に大切にされるのは、リンの管理です。IRISも、腎臓病用の食事ではリンを抑え、必要な栄養を維持することを重視しています。
タンパク質も調整されますが、「とにかく減らせばよい」わけではありません。病期、食欲、筋肉量、尿タンパク、カリウムなどを見ながら、筋肉を失わせず十分なカロリーを確保する必要があります。腎臓の数値が少し高いだけで自己判断の低タンパク食に切り替えず、IRISステージなどをもとに主治医と決めましょう。水分をとりやすくする工夫も、状態に応じて大切です。
心臓病|減塩だけでなく、食べる力と筋肉を見る
心不全ではナトリウム管理が必要になることがあります。ただし、心雑音がある段階と、うっ血性心不全の子では考え方が同じではありません。必要以上に自己流で塩分を絞ることは、食べにくさや栄養不足につながる場合もあります。
手作りごはんでは、塩を足さないだけでなく、肉・魚・だし・トッピングを含めた食事全体の栄養バランスを見直す必要があります。市販のカリカリやウェットを主食にしている場合も、「減塩」と書かれた人向け食品を足して調整するのではなく、主治医にフード名を伝え、必要ならナトリウム量や療法食への切り替えを確認しましょう。
心臓の子では、体重だけでなく筋肉量と食欲も大切です。食べられない状態が続くと、体力を支える筋肉まで落ちやすくなります。タウリンやL-カルニチンが注目される場面もありますが、「心臓病なら全員に必要」とは限りません。病気の種類、食事歴、検査結果に合わせて考えます。
肝臓病|低タンパク・低脂肪とは限らない
肝臓はタンパク質、脂質、糖質の代謝に関わる大切な臓器です。だから肝疾患でも、十分なエネルギーと栄養を確保することが基本になります。
タンパク質の制限が必要になるのは、肝性脳症など特定の状況です。Merck Veterinary Manualも、必要のない肝疾患でのタンパク質制限は適切ではないとしています。銅関連肝障害では銅の管理が重要になるなど、肝炎、門脈シャント、肝性脳症、銅蓄積性肝障害で見るべき点は異なります。
脂質も、肝臓の数値が高いからといって一律に減らすものではありません。脂質はエネルギー密度が高く、食べられる量が落ちている子では、必要なカロリーを支える役割もあります。また、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの利用にも関わります。多くの肝疾患では脂肪の消化・吸収に必ずしも問題が起きるわけではないため、自己判断で極端な低脂肪食にすると、かえってエネルギー不足につながることがあります。
一方で、胆汁の流れに問題がある場合、血中脂質が高い場合、膵炎などほかの疾患が重なる場合は、脂質量を調整する必要が出てくることがあります。手作りでも市販フードでも、「肝臓にいいから低脂肪」と一律に決めず、病名・検査値・便の状態・食欲をもとに主治医と選びましょう。
肝臓の数値が高い=低脂肪・低タンパク、ではありません。
膵炎|犬では脂質管理が重要。ただし犬猫で同じではない
犬の膵炎では、低脂肪食が治療の重要な要素になることが多く、おやつやトッピングも含めて脂質を見ます。フードは低脂肪でも、おやつで脂質を多くとっていては食事全体の目的とずれてしまいます。
ドライとウェットの脂質%は、水分量が違うため、そのまま比較できません。乾物換算や、カロリーあたりの脂質(g/1000kcal)で比較することが役立つ場合があります(詳しくは脂質表示のコラムへ)。一方、猫では脂質が犬ほど最優先とは限らず、食べられることや併発疾患も含めて考えます。Merck Veterinary Manualも、犬と猫で食事の考え方に差があることを示しています。
糖尿病|犬と猫を同じ「糖尿病食」でまとめない
糖尿病では、食事内容だけでなく、食事の時間・量と治療の一貫性が重要です。特にインスリン治療中なら、自己判断で食事を大きく変えると治療に影響することがあります。
猫では、高タンパク・低炭水化物の食事が検討されることが多く、2026年AAHA猫糖尿病ガイドラインでも、個別の状況に合わせた低炭水化物食と体重管理が中心に置かれています。ただし、糖尿病だから炭水化物を完全になくせばよい、という意味ではありません。犬では、体重を適正に近づけること、毎日ほぼ同じ量・同じタイミングで食べられること、インスリンなどの治療と食事をずらさないことが大切になります。どのフードが合うかは、肥満の有無や治療内容で変わるため、犬と猫を同じ「糖尿病食」でまとめないようにしましょう。
尿路結石|尿を酸性にすればいい、は危険

尿路結石には、ストルバイト、シュウ酸カルシウム、尿酸塩、シスチンなど、複数の種類があります。食事の目的も、種類によって異なります。
犬のストルバイトでは尿路感染が関わることが多く、食事だけでなく感染の治療が大切です。条件によって食事で溶解を目指せる結石がある一方、シュウ酸カルシウムは食事だけで溶かせません。一方の結石を意識した食事が、別の結石には合わないこともあります。尿pHだけで判断せず、結石の種類、尿比重、結晶、感染の有無を合わせて見ます。
どのタイプでも、水分をしっかりとって尿量を増やし、尿を濃くしすぎないことは重要になりやすい視点です。尿の量が増えると、結晶の材料になる成分が尿のなかで濃くなりすぎるのを抑え、排尿によって外へ出しやすくする助けになります。
家庭では、新鮮な水を複数の場所に置く、器の素材や形をその子の好みに合わせる、ウェットフードやドライのふやかしを主治医と相談して取り入れる、といった工夫が候補になります。ただし、飲水量が急に増えた・減ったときや、尿が出にくそうなときは、工夫だけで様子を見ず早めに受診してください。
慢性腸症|「お腹が弱い=低脂肪」ではない
慢性腸症では、消化性、脂質量、食物繊維の種類、タンパク源、食事量や回数などを見ます。食事の変更そのものが、診断と治療の一部になることがあります。
新奇タンパク食、加水分解タンパク食、高消化性食、食物繊維を調整した食事など、選択肢は一つではありません。下痢だから食物繊維を増やせばよい、とも限らず、小腸性か大腸性かなどでも考え方が変わります。便だけでなく、食欲、体重、嘔吐、検査結果を含めて主治医と選びましょう。
食物アレルギー|グレインフリーではなく、原因を絞る
食物アレルギーは、穀物だけの問題ではありません。犬猫では食物中のタンパク質に対する反応が関わることも多く、「アレルギーに良さそうなフード」を探すより、何に反応しているかを絞ることが大切です。
そこで行われることがあるのが除去食試験です。これまで食べたことのない新奇タンパク食、またはタンパク質を細かくした加水分解タンパク食を、決められた期間・条件で使います。おやつ、ガム、サプリ、薬を飲ませる補助食品まで原材料の確認が必要になるため、自己流ではなく獣医師の計画に沿って行います。
制限することだけを考えない
疾患食というと、脂質、リン、ナトリウムなど「何を食べさせないか」に目が向きがちです。でも同じくらい、必要なカロリーをとれているか、筋肉を維持できる栄養があるか、水分は足りているか、そして何よりその子が食べられているかが大切です。
病気の子では、理想の食事をまったく食べないこともあります。そんなときは、長期の理想と今の栄養状態を分け、主治医と優先順位を決めます。食べられること自体が回復の支えになる場面については、病中・シニアの栄養のコラムもあわせてどうぞ。
こんなときは、食事変更の前に動物病院へ
- 食欲低下、嘔吐、下痢、急な体重減少がある
- すでに療法食や薬を使っている
- 持病が二つ以上ある
- 尿の異常、むくみ、呼吸の変化、痛みが疑われる
- 手作り食や市販食への切り替えを考えている
疾患食は、家庭だけで試行錯誤するより、検査値と症状を知る主治医と組み立てるほうが安全です。
まとめ|病名ではなく、「今のその子」を見る
病気になったときの食事は、「○○を抜く」だけでは決まりません。腎臓病ならリン・カロリー・水分・筋肉、心臓病ならナトリウムだけでなく食べる力、肝臓病なら原因別の栄養管理、膵炎なら犬猫差、糖尿病なら治療との一貫性、結石なら種類、腸症やアレルギーなら食事を使った原因の見極めが大切です。
制限するものだけでなく、必要なカロリー、水分、筋肉を守る栄養、食べられる量まで見る。疾患名ではなく、病期・検査値・体型・食欲・合併症を含めた今のその子を見ることが、食事管理の本質です。迷ったときは、ひとりで正解を探さず、かかりつけの先生と一緒に、その子に合う一皿を考えてあげてください。
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