犬・猫の筋肉が健康を支える理由|シニアでも筋肉は増やせる?筋肉貯金と夏の運動
「最近、立ち上がるまでに少し時間がかかるようになった」「以前より歩く速度がゆっくりになった」「高い場所へ飛び乗らなくなった」
こうした変化を見ると、「年齢を重ねたから仕方がないのかな」と思ってしまうことがあるかもしれません。
確かに、犬や猫も年齢とともに筋肉量や筋力が低下しやすくなります。しかし、筋肉は若い頃にしか作れないものではありません。
シニアになってからでも、その子の体調や関節の状態に合った運動、十分な栄養、適切な休息を組み合わせることで、今ある筋肉を維持したり、身体機能の改善を目指したりすることは可能です。
そして筋肉は、単に歩いたり走ったりするためだけにあるものではありません。姿勢を保つこと、関節を支えること、呼吸すること、食べ物を噛んで飲み込むこと、排泄すること、体温を生み出すこと、さらに血液を心臓へ戻す働きを助けることや、血糖をエネルギーとして利用することにも筋肉が関わっています。
心臓そのものも、心筋という筋肉でできています。
つまり筋肉は、足腰だけではなく、犬や猫が毎日を自分らしく過ごすために欠かせない、全身の健康の土台なのです。
今回は、犬や猫の筋肉が体の中でどのような役割を担っているのか、シニアになっても筋肉を育てることはできるのか、若いうちから始めたい筋肉貯金、そして暑い夏に無理をさせない運動の考え方について詳しく解説します。
筋肉は「歩くため」だけのものではありません
筋肉と聞くと、多くの方が最初に思い浮かべるのは足や腰ではないでしょうか。
確かに、犬や猫が立つ、歩く、走る、飛び上がるといった動きには筋肉が必要です。しかし、筋肉の役割はそれだけではありません。
犬や猫の体では、目に見える足の筋肉だけでなく、体のさまざまな場所にある筋肉が連携して働いています。
| 筋肉の主な役割 | 体の中で行っていること |
|---|---|
| 体を動かす | 立つ、歩く、走る、飛ぶ、方向を変える |
| 姿勢を保つ | 体が倒れないように支え、バランスを取る |
| 関節を支える | 関節を安定させ、衝撃や負担を分散する |
| 呼吸を助ける | 横隔膜や肋間筋が胸郭を動かす |
| 食べる | 噛む、舌を動かす、飲み込む |
| 排泄を支える | 腹筋や骨盤周辺の筋肉が排尿・排便に関わる |
| 体温を作る | 筋肉の活動によって熱を生み出す |
| 血液循環を助ける | 手足の筋肉が血液を心臓へ戻す働きを支える |
| エネルギーを使う | 血液中の糖や脂肪酸をエネルギーとして利用する |
| 病気や安静に備える | 体力やアミノ酸の蓄えとして体を支える |
筋肉が減ると、単に歩ける距離が短くなるだけではありません。立ち上がりにくくなったり、滑りやすくなったり、姿勢が崩れたり、関節への負担が増えたりすることがあります。
さらに、少し動いただけで疲れるようになり、動かない時間が増えることで、ますます筋肉が減るという悪循環につながることもあります。
犬や猫の体には3種類の筋肉があります
犬や猫の体にある筋肉は、大きく3種類に分けられます。
骨格筋
骨格筋は、骨につながり、体を動かす筋肉です。
足や背中、首、肩、胸、腹部などにあり、歩く、走る、立ち上がる、座る、飛び乗る、尻尾を動かす、顔の表情を作るといった動きを生み出します。
一般的に「筋肉を鍛える」「筋肉が落ちる」と表現するときは、主にこの骨格筋を指します。
平滑筋
平滑筋は、胃や腸、膀胱、血管などの壁にある筋肉です。
犬や猫が自分の意思で動かすことはできません。食べ物を消化管の中で移動させたり、膀胱から尿を出したり、血管の太さを調整したりする働きを担っています。
心筋
心筋は、心臓を作っている特別な筋肉です。
骨格筋のように縞模様を持っていますが、自分の意思で動かすことはできません。眠っている間も休むことなく収縮と拡張を繰り返し、全身へ血液を送り続けています。
つまり、心臓はただの袋状の臓器ではなく、全身へ血液を送り出す筋肉のポンプなのです。
筋肉は姿勢とバランスを支えています
犬や猫が何気なく立っているときも、筋肉は働いています。
体が前後左右へ倒れないように、背中やお腹、足の筋肉が細かく力を調整しています。
特に、背骨や骨盤周りを支える体幹の筋肉は、姿勢を保つ、方向転換する、足をスムーズに動かす、急な動きに対応する、転倒を防ぐといった役割を担っています。
筋肉量やバランス能力が低下すると、平らな床では歩けていても、滑る床、段差、坂道、柔らかい地面、急な方向転換などで体勢を崩しやすくなります。
シニア犬がフローリングで足を滑らせるようになったり、猫が着地を失敗するようになったりする場合、関節の問題だけでなく、筋肉やバランス能力の低下が関係している可能性もあります。
筋肉は関節を守る天然のサポーター

骨と骨がつながる関節は、筋肉や腱、靱帯によって支えられています。
関節周辺の筋肉がしっかり働くことで、歩いたときや着地したときの衝撃が分散されます。
反対に筋肉が減ると、関節を安定させる力が弱まり、骨や軟骨、靱帯へ負担が集中しやすくなります。
変形性関節症では、痛みによって足を使わなくなり、その結果として筋肉が萎縮することがあります。筋肉が減ると関節がさらに不安定になり、別の足へ体重をかけることで、他の関節にも負担が広がることがあります。
つまり、次のような悪循環が起こる可能性があります。
関節が痛いから動かない
↓
動かないから筋肉が減る
↓
筋肉が減ることで関節が不安定になる
↓
さらに動きにくくなる
ただし、関節を守るために無理な運動をするのは逆効果です。
痛みのある子では、まず痛みの原因を確認し、必要に応じて治療やリハビリを行いながら、安全な範囲で筋肉を維持することが大切です。
呼吸にも筋肉が必要です
呼吸は肺だけで行っているように思えますが、肺そのものには、自力で大きく膨らんだり縮んだりする力がありません。
呼吸では主に、横隔膜、肋間筋、胸や腹部周辺の筋肉が働き、胸郭を広げたり狭めたりしています。
息を吸うときは横隔膜が収縮し、胸の中が広がります。息を吐くときは横隔膜が緩み、胸の中が元へ戻ります。
健康な状態では、普段の呼吸を強く意識することはありません。しかし、筋力が大きく低下している子や、神経・筋肉の病気がある子では、呼吸に必要な筋肉が弱ることで呼吸が難しくなることもあります。
また、心臓や肺に病気がある場合は、少し動くだけでも呼吸数が増えることがあります。
運動中だけでなく、安静時の呼吸が速い、呼吸が苦しそう、お腹を大きく使って呼吸している場合は、運動不足と考えず、早めに動物病院へ相談しましょう。
食べることにも筋肉が関わっています

食事を口に入れてから飲み込むまでにも、多くの筋肉が働いています。
顎を動かす筋肉、舌を動かす筋肉、頬や口の周りの筋肉、喉や食道周辺の筋肉などが連携することで、食べ物を噛み、口の奥へ送り、飲み込むことができます。
筋肉や神経の病気では、噛みにくい、口から食べ物をこぼす、飲み込むまでに時間がかかる、水を飲むとむせる、食後に咳をするといった変化が見られることがあります。
「食欲はありそうなのに食べにくそう」という場合は、歯や口の痛みだけでなく、顎や舌、喉の筋肉、神経の問題も考える必要があります。
排尿や排便も筋肉に支えられています
尿や便を排出するときには、膀胱や腸の平滑筋だけでなく、腹部や骨盤周辺の筋肉も関わっています。
足腰や体幹の筋力が低下すると、排泄の姿勢を長く保つことが難しくなることがあります。
犬では、排便姿勢を保てない、しゃがむとふらつく、片足を上げにくい、排泄中に尻もちをつくといった変化が見られる場合があります。
猫では、筋力や関節の問題によってトイレの縁をまたぎにくくなり、トイレ以外の場所で排泄してしまうこともあります。
排泄の失敗を「わがまま」や「認知症」と決めつけず、筋力、痛み、トイレの高さや床の滑りやすさも確認してあげることが大切です。
筋肉は体温を生み出しています
筋肉が収縮するときには、エネルギーの一部が熱になります。運動すると体が温かくなるのは、このためです。
寒いときに体が震えるのも、筋肉を細かく収縮させて熱を作ろうとする反応です。
筋肉量が少なくなると、体内で熱を生み出す力が低下し、寒さに弱くなる可能性があります。
特に、シニア、痩せている、被毛が短い、病気や手術後、食事量が少ない子では、気温の低下に注意が必要です。
一方、暑い時期には、運動によって作られた熱を体外へ逃がす必要があります。
犬は人のように全身から大量の汗をかくことができず、主にパンティングによって熱を逃がします。そのため、暑い日に激しい運動をすると、筋肉が作る熱と外気から受ける熱が重なり、体温が危険なほど上昇する可能性があります。
筋肉は血糖を利用する大切な場所です
食事から吸収されたブドウ糖は、血液によって全身へ運ばれます。
筋肉は、このブドウ糖を取り込み、体を動かすためのエネルギーとして使います。また、すぐに使わないブドウ糖の一部は、筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。
そのため、骨格筋は血糖を調整するうえでも重要な組織です。
筋肉量が多ければ、それだけで必ず血糖値が正常になるわけではありません。しかし、適度に筋肉を動かすことは、エネルギー消費や糖の利用を支えることにつながります。
筋肉はただ体を動かす部品ではなく、代謝にも関わる大きな組織なのです。
筋肉と心臓にはどのような関係がある?
筋肉と心臓の関係は、大きく分けると3つあります。
心臓そのものが筋肉でできている
心臓の壁は、主に心筋でできています。
心筋が規則正しく収縮することで、血液が肺や全身へ送られます。
ただし、足や背中の骨格筋を鍛える運動をすれば、心筋が同じように大きくなるという意味ではありません。
心臓は、体の状態や運動量に合わせて働き方を調整する特別な筋肉です。
心臓病がある場合、運動によって心臓へ過剰な負担がかかることもあるため、自己判断で運動量を増やしてはいけません。
足の筋肉が血液を心臓へ戻すのを助ける
心臓から送り出された血液は、動脈を通って全身へ運ばれ、静脈を通って心臓へ戻ります。
足の静脈を流れる血液は、重力に逆らって心臓へ戻らなければなりません。
歩いたり足を動かしたりすると、足の筋肉が静脈を外側から圧迫します。この働きによって、血液が心臓へ戻るのを助けます。
これは「筋ポンプ作用」と呼ばれます。
つまり足の筋肉は、心臓の代わりになるわけではありませんが、全身の血液循環を支える補助ポンプのような役割を持っています。
心臓病では骨格筋が減ることがある
慢性的な心臓病や心不全が進行すると、食欲の低下、運動量の減少、炎症、代謝の変化などが重なり、筋肉量が減少することがあります。
心臓病に伴って筋肉が減っていく状態は、心臓性悪液質・心臓性カヘキシアと呼ばれることがあります。
心臓病の子で、背中や腰が骨ばってきた、頭の筋肉が薄くなった、体重は同じなのに体が細く見える、食欲が落ちてきた、以前より疲れやすいといった変化がある場合は、年齢のせいと考えず、獣医師へ相談しましょう。
心臓病の子は運動してはいけない?
心臓病だからといって、すべての子が完全に運動禁止になるわけではありません。
病気の種類や進行度、現在の症状によっては、無理のない範囲で体を動かすことが、筋肉や生活の質を保つために役立つ場合があります。
一方で、心臓病が進行している子に強い運動をさせると、呼吸が苦しくなる、心拍数が過度に上がる、失神する、不整脈が起こる、症状が悪化するといった可能性があります。
心臓病の子では、どの程度歩いてよいか、坂道や階段を使ってよいか、夏の散歩時間をどうするか、興奮する遊びを避けるべきか、安静時呼吸数をどのように確認するかを獣医師と相談して決めることが大切です。
「筋肉を落としたくない」という気持ちから、自己判断で運動を増やすことは避けましょう。
筋肉が減る「サルコペニア」とは?
加齢に伴って筋肉量や筋力、身体機能が低下する状態は、サルコペニアと呼ばれます。
犬や猫でも、年齢を重ねるにつれて筋肉が減少することがあります。
特に犬では、加齢に伴う筋肉量の低下に加え、運動量の減少、関節の痛み、慢性炎症、食欲の低下、タンパク質摂取量の不足、神経疾患、心臓や腎臓などの慢性疾患が重なることで、筋肉減少が進みやすくなると考えられています。
サルコペニアは、単に体が細くなるだけではありません。
- 歩く速度が遅くなる
- 疲れやすくなる
- 転びやすくなる
- 段差を越えにくくなる
- 関節への負担が増える
- 日常生活で介助が必要になる
といった変化につながります。
病気で筋肉が減る「カヘキシア」との違い
サルコペニアは主に加齢に伴う筋肉減少です。
一方、心臓病、腎臓病、がんなどの慢性疾患に伴って筋肉が減る状態は、カヘキシアまたは悪液質と呼ばれます。
| サルコペニア | カヘキシア | |
|---|---|---|
| 主な原因 | 加齢 | 慢性疾患、炎症、代謝の変化など |
| 筋肉量 | 減少する | 減少する |
| 脂肪 | 保たれる場合もある | 脂肪も減ることがある |
| 食欲 | 保たれることもある | 低下する場合がある |
| 対応 | 運動・栄養・生活環境の見直し | 原因となる病気の治療と栄養管理 |
実際には、シニアの子でサルコペニアと病気に伴うカヘキシアが重なっていることもあります。
「年だから筋肉が落ちた」と決めつけず、急に痩せた場合や筋肉の減少が目立つ場合は、病気が隠れていないか確認することが大切です。
体重が変わらなくても筋肉は減ることがあります
筋肉の変化は、体重計だけでは分からないことがあります。
たとえば、筋肉が減った分だけ脂肪が増えると、体重はほとんど変わりません。見た目も被毛で隠れているため、筋肉の減少に気づきにくいことがあります。
特に長毛の犬や猫、肥満気味の子では、脂肪の下で筋肉が減っていても分かりにくいものです。
脂肪の量を見るボディコンディションスコア(BCS)とは別に、筋肉量を見るマッスルコンディションスコア(MCS)があります。
筋肉量は、頭部、肩甲骨、背骨の両側、腰、骨盤周辺などを見たり触ったりして確認します。
評価は、正常、軽度の筋肉減少、中等度の筋肉減少、重度の筋肉減少に分けられます。
太っている犬や猫でも、筋肉が大きく減少している場合があるため、体脂肪と筋肉は分けて確認する必要があります。
日常で気づきたい筋肉低下のサイン
次のような変化が見られたら、筋肉量や筋力が低下している可能性があります。
犬に見られやすい変化
- 立ち上がるまでに時間がかかる
- 散歩の速度が遅くなった
- 後ろ足が震える
- 段差をためらう
- 階段を嫌がる
- 車やソファへ飛び乗れない
- 散歩中につまずく
- 爪を擦る音がする
- 足が滑りやすくなった
- 背中や腰が骨ばってきた
- 長く立っていられない
- 排泄姿勢が安定しない
猫に見られやすい変化
- 高い場所へ飛び乗らなくなった
- 一度で上がれず、途中の台を使う
- 着地が不安定になった
- キャットタワーを使わなくなった
- 寝ている時間が増えた
- 爪とぎの姿勢が変わった
- 毛づくろいが行き届かなくなった
- トイレの縁をまたぎにくそう
- 後ろ足のかかとが下がって見える
- 背中や腰が骨ばってきた
こうした変化は筋肉だけでなく、関節炎、神経疾患、心臓病、呼吸器疾患、痛みなどでも起こります。
変化が続く場合は、自己流で運動を増やす前に動物病院へ相談しましょう。
シニアでも筋肉は増やせる?

結論からお伝えすると、シニアになってからでも、筋肉を維持し、状態によっては筋力や身体機能の改善を目指すことができます。
年齢を重ねると、若い頃よりも筋肉を作る反応が弱くなったり、回復に時間がかかったりすることがあります。
それでも、筋肉には使われた刺激に適応する力があります。
高齢犬のリハビリテーションでは、その子に合った筋力運動、有酸素運動、バランス運動、環境調整、栄養管理を組み合わせることが重視されています。
また、水中トレッドミルや水泳などのリハビリは、関節への負担を抑えながら、動きや筋力を支える方法として利用されています。
ただし、シニアでも筋肉が作れるから、たくさん運動させればよいというわけではありません。
シニア期は、無理な運動で関節や心臓、呼吸器へ負担をかけないことが何より大切です。
筋肉を作るには「運動・栄養・休息」が必要
筋肉を維持したり育てたりするためには、運動だけでは不十分です。
次の3つを一緒に考える必要があります。
1.適度な運動
筋肉は、使うことで刺激を受けます。
歩く、立ち上がる、姿勢を保つといった日常の動きも筋肉への刺激になります。
大切なのは、長時間の激しい運動ではなく、その子が無理なく続けられる動きを積み重ねることです。
2.十分な栄養
筋肉の主な材料はタンパク質です。
タンパク質は体内でアミノ酸へ分解され、筋肉や皮膚、被毛、酵素、ホルモンなどの材料になります。
特にシニアでは、食事量が減ることで、エネルギーだけでなくタンパク質の摂取量も不足する場合があります。
一方、腎臓病や肝臓病などで食事制限が必要な子もいます。
「シニアだからタンパク質を減らす」と自己判断するのではなく、健康状態に合った量と質を考えることが大切です。
3.休息と睡眠
筋肉は、運動している最中に完成するわけではありません。
運動によって刺激を受けたあと、栄養と休息を取ることで、体は筋肉を修復し適応していきます。
毎日限界まで動かす必要はありません。
疲労が残っている日や、体調がすぐれない日は休むことも、筋肉を守るための大切なケアです。
若いうちから始めたい「筋肉貯金」
筋肉貯金とは、将来のために普段から筋肉と動く習慣を蓄えておくという考え方です。
筋肉を文字どおり体の中へ永久に貯めておけるわけではありません。筋肉は、使わない期間が続けば少しずつ減っていきます。
それでも若い頃から、適正体重を保つ、定期的に体を動かす、さまざまな地面を歩く、筋肉を支える食事を取る、関節や痛みを早めにケアする、動きやすい生活環境を整えることを続けておけば、シニア期や病気、安静期間を迎えたときの体力の余裕につながります。
筋肉量が十分にある状態から少し減るのと、もともと少ない状態からさらに減るのとでは、日常生活への影響が異なります。
若いうちからの筋肉貯金は、酷暑で散歩が短くなる時期、雨が続いて外へ出にくい時期、病気やけがで安静が必要なとき、手術後の回復期、シニア期に、その子の体を支えてくれます。
酷暑の日にいつも通り歩かなくても大丈夫
筋肉を衰えさせたくないからといって、酷暑の日にいつもと同じ距離の散歩へ行く必要はありません。
むしろ、気温や湿度が高い日に無理な運動をすると、熱中症の危険が高まります。
犬は運動すると筋肉から熱が生まれます。さらに、外気や日差し、熱くなった地面からも熱を受けます。
高温多湿ではパンティングによる放熱が追いつきにくくなるため、体の中に熱が蓄積する可能性があります。
特に注意したいのは、シニア、子犬、短頭種、肥満気味、心臓病がある、呼吸器疾患がある、被毛が密、暑さに慣れていない、以前に熱中症になったことがある子です。
数日散歩が短くなっても筋肉は一気になくなりません
「今日歩かなかったら筋肉が落ちてしまう」と心配になるかもしれません。
しかし、暑さの厳しい日に散歩を短くしたり、1日休んだりしただけで、筋肉が突然なくなるわけではありません。
それよりも、無理に散歩へ行って、熱中症になる、肉球をやけどする、関節や筋肉を痛める、心臓や呼吸器へ負担をかける、体調を崩して長期間動けなくなる方が、結果として筋肉を大きく失う原因になりかねません。
休む勇気も、筋肉を守るための大切な選択です。
外を歩けない日は、室内で短い動きを取り入れたり、体調を整えたりしながら、安全に過ごしましょう。
暑い日にできる室内の筋肉貯金

室内運動は、長時間行う必要はありません。
数分の動きを体調に合わせて分けて行うだけでも、筋肉を使う機会になります。
ただし、関節疾患、神経疾患、心臓病、呼吸器疾患がある子は、始める前に獣医師やリハビリ専門家へ相談してください。
ゆっくり立つ・座る
「おすわり」と「立って」をゆっくり繰り返します。
主に後ろ足やお尻、体幹の筋肉を使います。
最初は1〜3回程度から始め、動きが崩れる前に終わります。
膝、股関節、腰に痛みがある子や、座る姿勢が難しい子には向きません。
数歩だけ後ろへ下がる
後ろ歩きでは、普段の前歩きとは異なる体の使い方が必要です。
おやつや手でゆっくり誘導し、数歩だけ下がってもらいます。
体を押したり、足を無理に動かしたりしないでください。
ゆっくり重心を移動する
犬の正面でおやつを持ち、顔をゆっくり左右へ動かします。
犬がおやつを目で追うことで、体重が左右の足へ移動します。
首や背中に痛みがある場合は行わないでください。
低い障害物をまたぐ
丸めたタオルや非常に低い棒を床へ置き、ゆっくりまたいでもらいます。
足を少し持ち上げることで、関節の動きや足の位置を意識する練習になります。
転倒を防ぐため、必ず滑らない床で行います。
廊下や部屋を短く歩く
室内の涼しい場所を数往復します。
長時間まとめて歩かせるのではなく、1〜3分程度を複数回に分けても構いません。
急な方向転換は関節へ負担がかかるため、ゆっくり大きく回るようにします。
ノーズワークを取り入れる
フードやおやつを部屋の中へ隠し、ゆっくり探してもらいます。
激しく走らなくても、歩く、立ち止まる、方向を変える、頭を下げるといったさまざまな動きが生まれます。
頭も使うため、運動量を増やしにくい日にも取り入れやすい遊びです。
猫の室内運動は「狩り」を意識する
猫は、犬のように一定時間歩き続ける運動よりも、短時間の狩りのような動きを好む傾向があります。
猫の運動では、おもちゃをゆっくり追う、数歩走る、しゃがむ、飛びつく、物陰から狙う、低い台へ乗るといった動きを短時間で行います。
1回に長く遊ばせるより、数分ずつ複数回に分ける方が取り入れやすいことがあります。
シニア猫では、高い場所へ無理に飛ばせる必要はありません。
低い台やステップを設置し、安全に上り下りできる環境を作るだけでも、日常的に筋肉を使いやすくなります。
床や生活環境を整えることも筋肉ケア
筋肉を鍛えることばかりに注目しがちですが、筋肉を安全に使える環境を作ることも重要です。
滑りにくい床にする
フローリングで滑ると、足を踏ん張れず、本来使いたい筋肉を正しく使えません。
滑った経験から歩くことを怖がり、活動量が減ることもあります。
マットやカーペットを敷き、歩く場所をつなげてあげましょう。
段差を減らす
高い段差は、弱くなった筋肉や関節へ大きな負担をかけます。
スロープや低いステップを使用し、必要に応じてソファやベッドへの飛び乗りを防ぎます。
爪や足裏の毛を整える
爪が長い、足裏の毛が伸びていると、床をしっかり捉えにくくなります。
爪と足裏を定期的に整えることで、立ったり歩いたりしやすくなります。
食器やトイレの高さを見直す
首や足腰が弱くなった子では、低すぎる食器や高いトイレの縁が負担になることがあります。
日常動作を行いやすい高さへ調整することも、体力の消耗を減らす助けになります。
散歩は距離だけで考えなくて大丈夫
散歩の価値は、何キロ歩いたかだけでは決まりません。
犬にとって散歩は、においを嗅ぐ、外の音を聞く、地面の感触を確かめる、気分転換をする、飼い主さんと一緒に過ごす大切な時間でもあります。
暑い日は、涼しい時間帯に短時間だけ外へ出て、においを嗅いで帰るだけでも構いません。
距離が短くても、ゆっくり歩く、安全な場所で立ち止まる、地面のにおいを確認する、帰宅後に室内で少し体を動かすという過ごし方ができます。
「いつもの距離を歩けなかった」と考えるのではなく、その日の気候と体調に合わせて、安全にできたことを大切にするという考え方がよいでしょう。
筋肉痛や疲労のサインを見逃さない
運動後に次のような変化が見られた場合は、運動量が多すぎた可能性があります。
- 翌日に動きたがらない
- 立ち上がりにくい
- 歩き方がぎこちない
- 足を引きずる
- 触られるのを嫌がる
- 階段や段差を避ける
- 食欲が落ちる
- 呼吸がなかなか落ち着かない
- 尿の色が濃い
- 元気がない
激しい運動や過度な運動は、筋肉の損傷につながることがあります。
筋肉を育てるには、疲れ切るまで動かす必要はありません。
その日の運動だけでなく、翌日の様子まで確認しましょう。
筋肉を守る食事で大切なこと

筋肉の材料になるタンパク質は、毎日の食事から摂取する必要があります。
肉、魚、卵などに含まれるタンパク質は、体内でアミノ酸へ分解され、筋肉の維持や修復に使われます。
ただし、タンパク質だけを増やせば筋肉が増えるわけではありません。
筋肉を支えるためには、必要なエネルギー、十分なタンパク質、必須アミノ酸、脂質、ビタミン、ミネラル、水分をバランスよく摂ることが必要です。
食事量が不足していると、せっかく摂ったタンパク質が筋肉の材料ではなく、エネルギーとして使われることがあります。
シニアでは食欲の低下、歯や口の問題、嗅覚の変化などによって、食事量が減ることもあります。
食べる量が少なくなったと感じたら、体重だけでなく筋肉の状態も確認しましょう。
肥満でも筋肉が不足していることがあります
体重が重いから筋肉も多いとは限りません。
脂肪が多く、筋肉が少ない状態になることもあります。
肥満の子では、重い体を支えるために関節へ負担がかかり、痛みから動かなくなることで、さらに筋肉が減ることがあります。
そのため体重管理では、体重を減らす、脂肪を減らす、筋肉をできるだけ維持することを同時に考える必要があります。
食事だけを大きく減らし、ほとんど動かない状態で急激に痩せると、脂肪だけでなく筋肉も失う可能性があります。
減量中も、その子の体調に合った範囲で体を動かすことが大切です。
動物病院へ相談したい変化
次のような変化がある場合は、単なる加齢や運動不足と考えず、動物病院へ相談しましょう。
- 急に筋肉が落ちた
- 左右で筋肉量が違う
- 急に歩けなくなった
- 足を引きずる
- 立ち上がれない
- 痛みを感じている
- 呼吸が速い、苦しそう
- 失神した
- 咳が増えた
- 食欲や体重が落ちている
- 水を飲む量や尿量が増えた
- 嘔吐や下痢が続く
- 背中や頭が急に骨ばってきた
- 運動後に回復するまで時間がかかる
筋肉減少の背景には、関節疾患だけでなく、心臓病、腎臓病、内分泌疾患、神経疾患、がん、慢性炎症などが隠れていることがあります。
早い段階で原因を確認できれば、筋肉を守るための対応も始めやすくなります。
まとめ:休む日も含めて筋肉貯金です
筋肉は、歩いたり走ったりするためだけのものではありません。
犬や猫の体の中では、姿勢とバランスを保つ、関節を安定させる、呼吸を助ける、食べ物を噛んで飲み込む、排尿や排便を支える、体温を生み出す、血糖をエネルギーとして利用する、血液が心臓へ戻るのを助けるなど、さまざまな役割を担っています。
そして心臓そのものも、心筋という筋肉でできています。
慢性的な心臓病では、食欲や活動量、代謝の変化などによって骨格筋が減ることもあるため、心臓と全身の筋肉は無関係ではありません。
年齢とともに筋肉は減りやすくなりますが、シニアだから、もう筋肉は作れないということではありません。
その子に合った小さな運動、十分な栄養、適切な休息を積み重ねることで、今ある筋肉を守り、身体機能の維持や改善を目指すことができます。
ただし、筋肉を衰えさせたくないからといって、酷暑の日にいつもと同じ距離の散歩へ行く必要はありません。
暑い日に無理をして熱中症やけがを起こし、長期間動けなくなる方が、筋肉を失う大きな原因になります。
外へ出られない日は、室内を少し歩く、ゆっくり立つ・座る、数歩だけ後ろへ下がる、ノーズワークを楽しむ、猫じゃらしで短時間遊ぶ、涼しい部屋でしっかり休むという過ごし方もできます。
筋肉貯金とは、毎日長い距離を歩くことではありません。
安全に体を動かすこと、しっかり食べること、痛みや病気を早めに見つけること、眠って体を回復させること、そして危険な暑さの日には無理をせず休むこと。
そのすべてが、将来の体を支える筋肉貯金になります。
シニアになってからでも遅くありません。
今日できる小さな動きの積み重ねが、これからも自分の足で立ち、歩き、大好きな家族と一緒に過ごすための力になります。
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