犬・猫が食べてはいけないもの|「なぜ危ないか」まで知る、いざという時に守れる知識
「玉ねぎやチョコはダメ」——これは、多くの飼い主さんがご存じだと思います。けれど、「なぜダメなのか」「どのくらいの量で危ないのか」「もし食べてしまったら、まず何をすればいいのか」まで、はっきり答えられる方は意外と少ないかもしれません。
食べてはいけないものを”知っている”ことと、いざという時に”正しく動ける”ことは、少し違います。誤食は、どんなに気をつけていても、ふとした瞬間に起こります。テーブルに置いたお菓子、床に落ちたひとかけら、来客が悪気なく分けてしまったひと口——事故はいつも、日常のすぐそばにあります。
この記事では、まず「これは避けて」という食材を一覧でお伝えし、そのうえで、犬や猫の体の中で何が起きているのか、どのくらいの量が危険なのか、そして誤食してしまったときの正しい対処までを、ていねいに掘り下げていきます。すでに詳しい方にも、「そこまでは知らなかった」と思っていただける内容を目指しました。頭の片隅に置いておくと、いつか大切な家族を守ることにつながります。
まずは一覧|これは避けてほしい食べ物
細かい話に入る前に、代表的な「食べてはいけないもの」を、危険度の目安とともにまとめます。危険度は、少量でも命に関わりうるものを「★★★」としています。
| 食べ物 | 危険度 | 主な影響 |
|---|---|---|
| ネギ類(玉ねぎ・長ねぎ・にら・にんにく) | ★★★ | 赤血球が壊れる貧血 |
| チョコレート・ココア | ★★★ | 神経・心臓への中毒 |
| ぶどう・レーズン | ★★★ | 急性腎障害 |
| キシリトール(ガム・お菓子など) | ★★★ | 低血糖・肝障害(犬で特に) |
| アルコール | ★★★ | 中枢神経の抑制 |
| マカダミアナッツ | ★★ | 脱力・ふるえ・発熱 |
| 生のパン生地・アルコール発酵するもの | ★★ | 胃の膨張・アルコール中毒 |
| カフェイン(コーヒー・お茶・エナジードリンク) | ★★ | 神経・心臓への中毒 |
| 鶏などの加熱した骨 | ★★ | 消化管を傷つける・詰まる |
| 生卵の白身(多量・常食) | ★ | ビオチンの吸収阻害 |
| 塩分の多い人の食べ物 | ★ | 腎臓・心臓への負担 |
「★の数が少ない=安全」という意味ではありません。どれも、犬や猫の口に入らないようにしておきたいものです。以下では、特に知っておきたいものを深掘りしていきます。
ネギ類|加熱しても、煮汁でも危険
玉ねぎ、長ねぎ、にら、にんにくなどのネギ類には、犬や猫の赤血球を壊してしまう成分が含まれています。その結果、赤血球が破壊されて「溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)」という状態を引き起こします。
このネギ類が特に厄介なのは、加熱しても毒性が消えないことです。生のねぎをかじる子は多くありませんが、実際に多いのは「玉ねぎ入りのハンバーグを食べてしまった」「カレーのついたごはんをなめた」「肉じゃがの煮汁を飲んだ」というケース。つまり、危険は”料理に溶け込んだ形”でやってきます。エキスが染み出た煮汁やスープも危険、と覚えておいてください。
中毒量の目安は、犬で体重1kgあたり玉ねぎ15〜30g、猫ではさらに少なく5gほどと報告されています。ただし個体差が大きく、量だけで安全・危険を線引きするのは難しいのが実情です。猫や、赤血球がもともと壊れやすい一部の犬種では、より少ない量でも影響が出ることがあります。
チョコレート|カカオが濃いほど危険

チョコレートに含まれるテオブロミンという成分が、犬や猫にとっての毒になります。人はこれを問題なく分解できますが、犬や猫は分解がとても遅く、体内に長くとどまって、神経や心臓に作用してしまうのです。嘔吐や下痢、興奮、ふるえ、進行するとけいれんや不整脈を引き起こすことがあります。
ここで知っておきたいのが、カカオが濃いチョコレートほど危険だということ。テオブロミンはカカオに含まれるので、ホワイトチョコよりミルクチョコ、ミルクチョコよりダークチョコ、そして高カカオチョコや純ココア、製菓用チョコが特に危険です。
目安として、中毒症状が出はじめるのは体重1kgあたりテオブロミン20mg程度とされます。これは、体重5kgの犬ならミルクチョコレート板チョコ1枚の7割ほどでも危険域に入りうる、という量です。高カカオチョコならもっと少量で達してしまいます。「ひとかけらだけだから」という油断が、小さな体には大きな負担になります。
ぶどう・レーズン|少量でも急性腎障害の恐れ
ぶどうとレーズンは、犬で急性腎障害(腎臓が急に働かなくなる状態)を引き起こすことが知られています。恐ろしいのは、その毒性のしくみがいまだにはっきり解明されていないこと、そして中毒を起こす量にとても大きな個体差があることです。
ある子は多く食べても平気で、別の子はほんの数粒で命に関わる——どの子が敏感なのかは、食べてみるまでわかりません。レーズンはぶどうが濃縮されているぶん、さらに危険性が高いとされ、ほんのひとつかみで重い腎障害を起こしたケースも報告されています。
見落としやすいのが、ぶどうやレーズンがパン、ケーキ、パイ、サラダなどに隠れていること。果汁100%ジュースやしぼりかすでも中毒は起こります。「果物なら安全そう」というイメージがいちばん危ない食材のひとつです。
キシリトール|犬では”少量”が命に関わる
キシリトールは、ガムやタブレット、お菓子、歯みがき粉などに使われる甘味料です。犬では、体内でインスリンの分泌を強く促してしまい、急激な低血糖を引き起こします。摂取から30分ほどで血糖が下がり、ぐったりしたり、ふらついたり、けいれんを起こしたりします。さらに、量が多いと肝障害につながることもあります。
キシリトールの怖さは、その”効く量の少なさ”です。体重10kgの犬なら、キシリトール2〜4gほどで中毒を起こすとされ、これはガム数粒に含まれる量にあたることもあります。バッグに入れていたガムを盗み食いした、という事故が後を絶ちません。甘い香りに誘われやすいので、犬の届かない場所での保管を徹底したい食材です。
意外と知られていない危険な食べ物
ここからは、「え、これも?」と思われることの多いものです。詳しい方でも見落としがちなので、ぜひ頭の片隅に。
マカダミアナッツ
数あるナッツの中で、はっきり「危険」とされているのがマカダミアナッツです。犬が食べると、脱力、ふるえ、発熱、歩きたがらないといった症状が、食後12時間以内くらいに出ることがあります。しくみは完全には解明されていませんが、少量でも症状が出ることがあります。クッキーやチョコ菓子に入っていることが多いので注意が必要です。
生のパン生地
飲み込んだ生地が、あたたかい胃の中で発酵して膨らみ、お腹が張って苦しくなります。さらに発酵の過程でアルコールが生じ、アルコール中毒を併発することもある、二重に危険な食べ物です。
加熱した鶏などの骨
加熱した骨は縦に鋭く裂けやすく、のどや食道、胃腸を傷つけたり、詰まらせたりする危険があります。「骨は犬の好物」というイメージがありますが、加熱した骨は避けたほうが安心です。
カフェイン
コーヒー、お茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインも、チョコレートと似たしくみで神経や心臓に作用します。飲み残しのカップを床に置いたままにしないよう気をつけましょう。
ナッツ類は「マカダミア以外なら安心」ではない
「危ないのはマカダミアナッツだけ」と聞くと、ほかのナッツは自由に与えていいのかな、と思われるかもしれません。ここは少しだけ、ていねいに整理しておきます。
たしかに、中毒を起こすはっきりした危険があるのは、マカダミアナッツと「ビターアーモンド」です。ビターアーモンドは野生種のアーモンドで、アミグダリンという有害物質を含みます。日本ではほとんど流通しておらず、私たちが普段食べるのは中毒成分を含まない「スイートアーモンド」のほうですが、名前だけでも知っておくと安心です。クルミやピスタチオ、ピーナッツ(正確には豆類ですが)は、中毒の報告例がなく、少量なら大きな問題はないとされています。
ただ、「中毒にならない=どんどんあげていい」ではありません。ナッツ類はどれも脂質が多くて高カロリーなので、肥満や、下痢・嘔吐といった消化器の不調につながりやすい食べ物です。特にアーモンドは消化が悪く、少量でも軟便になりやすいとされます。殻つきのピスタチオの殻は消化できませんし、味つきのナッツは塩分も心配。古いクルミにはカビ毒が生じていることもあります。
まとめると、ナッツは「中毒の危険はマカダミアとビターアーモンドに限られるけれど、それ以外も”積極的にあげたい食材ではない”」というのが、いちばん正確な捉え方です。うっかり一粒こぼしてしまったくらいで慌てる必要はありませんが、おやつとして日常的に与えるのは避けておくのが無難です。
「実は意見が分かれる」食材|アボカド

危険な食べ物を語るとき、必ず名前が挙がるのがアボカドです。けれど実はこのアボカド、専門家の間でも意見が分かれている、少し特別な食材です。せっかくなので、正確なところをお伝えします。
アボカドに含まれる「ペルシン」という成分は、鳥・ウサギ・馬・ヤギなどには有害と報告されています。ただ、犬や猫についてははっきりした中毒の報告が乏しく、安全性・危険性のどちらもデータが十分ではないというのが実情です。そのため、多くのガイドラインでは「念のため与えないほうがよい」とされる、いわば”グレーゾーン”の食材なのです。
実際、海外ではアボカドを主原料にしたペットフードが40年以上販売されてきた実績があり、アボカド入りのフードやおやつも存在します。「危険と言われているのに、なぜフードに?」と疑問に思われるかもしれませんが、こうした製品はペルシンの量が管理された状態で加工されているため、通常の給与で中毒を起こすリスクはほとんどないとされています。「フードに使われている=おかしい」わけではない、というわけです。
とはいえ、家庭で生のアボカドを与えるのはおすすめしません。理由は中毒よりも、むしろ現実的なところにあります。種や皮は果肉よりペルシン濃度が高く、大きく硬い種を飲み込めば喉や腸に詰まる危険があります。そして何より、アボカドは「森のバター」と呼ばれるほど脂肪分が多く、体質や量によっては下痢や膵炎(すいえん)につながることもあります。
つまりアボカドは、「玉ねぎやチョコのように絶対NG」というよりは、「管理された製品なら問題ないが、家庭で生を与えるメリットは少なく、種・皮・脂肪分のリスクがある」食材。“危険リスト”にも濃淡がある——その一例として知っておくと、情報に振り回されずにすみます。
逆に|「ダメ」と誤解されがちな、実はあげてもいいもの
危険な食べ物を知ることと同じくらい大切なのが、「本当はあげても大丈夫なのに、なんとなく避けられているもの」を正しく知ることです。過剰に怖がると、せっかくの良い食材を遠ざけてしまうこともあります。ここは”線引き”を知りたい方に、特に読んでいただきたいところです。
代表的なのが、いか・えび・貝です。「消化に悪いから絶対ダメ」と敬遠されがちですが、正しくは生がダメで、加熱すれば少量は問題ないものが多いのです。生のいか・えび・貝には、ビタミンB1を壊してしまう成分(チアミナーゼ)が含まれますが、この成分は加熱で働きを失います。しっかり火を通し、味つけをせず、少量を——という条件を守れば、過度に怖がる必要はありません。もちろん、消化のことを考えれば細かくしてあげるのが親切ですし、丸のみしやすい大きさのものは避けたいところです。
ここに、危険食材とはまた別の大切な視点があります。「その食べ物が丸ごと危険」なのではなく、「生・味つき・与えすぎが危険」なことも多いのです。丸ごと”NG”と覚えるより、この視点を持っておくと、情報に振り回されず、その子の食の楽しみも守ってあげられます。
なお、少し豆知識を添えると、チョコレートの代わりのおやつとして知られる「キャロブ(いなご豆)」には、犬猫に有害なテオブロミンが含まれません。見た目や風味はチョコに似ていますが、安全に楽しめる素材として、犬用のおやつにも使われています。
なお、少し豆知識を添えると、チョコレートの代わりのおやつとして知られる「キャロブ(いなご豆)」には、犬猫に有害なテオブロミンが含まれません。見た目や風味はチョコに似ていますが、安全に楽しめる素材として、犬用のおやつにも使われています。
食べ物だけじゃない|散歩中の植物と拾い食いにも注意
危険は、お皿の上だけにあるわけではありません。散歩道や庭先、公園には、口にすると危ない植物が思いのほかたくさんあります。ここは詳しい方でも見落としがちなので、ぜひ知っておいてください。
スイセン(水仙)
春先によく見かける水仙は、全体にリコリンなどの有毒成分を含み、特に球根の毒性が強い植物です。犬が葉や球根を口にすると、30分以内に嘔吐や下痢が起こり、重い場合は不整脈や神経症状につながることもあります。葉がニラやネギに似ているため、間違えて口にする事故もあります。散歩中、花壇や道端の水仙に鼻先を近づけたら、そっと離してあげてください。
チューリップ
花・茎・葉・球根のすべてに有毒成分(ツリパリンなど)を含み、特に球根が危険です。土を掘り返して球根をかじる、といった事故に注意が必要です。嘔吐や下痢のほか、成分が皮膚につくと炎症を起こすこともあります。
スズラン
可憐な見た目とは裏腹に、犬・猫を含むすべての動物に毒性がある、とても危険な植物です。口にしなくても、活けてあった花瓶の水を飲んだだけで、心臓に作用して不整脈やけいれんを起こすことがあります。ユリと並んで、家に持ち込みたくない花のひとつです。
このほかにも、アサガオの種、ポインセチア、シクラメン、アジサイなど、身近な植物に有毒なものは少なくありません。「この草、うちの子がよくかじるな」と思ったら、一度名前を調べてみると安心です。
猫と暮らすなら「ユリ」は特に危険
植物のなかでも、猫にとって最も危険とされるのがユリです。花や葉、茎はもちろん、花粉をなめたり、活けてあった花瓶の水を飲んだりするだけでも、急性腎障害を起こして命を落とすことがあります。切り花のブーケにさりげなく入っていることも多いので、猫のいるお宅では、ユリ科の花を家に持ち込まないのがいちばん安全です。いただきものの花束にも、どうか目を向けてあげてください。
秋の落とし穴|銀杏(ぎんなん)の拾い食い
秋になると、イチョウの木の下にたくさん落ちている銀杏。実はこれも、犬には注意したい存在です。
銀杏には、ビタミンB6のはたらきを邪魔する「メチルピリドキシン」という成分が含まれ、大量に食べるとけいれんや嘔吐などの神経症状を起こすことがあります。この成分は加熱しても消えないため、調理した銀杏(茶碗蒸しなど)も安全ではありません。中毒症状が出るのは、食べてからおよそ1〜12時間後とされ、時間が経ってからあらわれるのが厄介な点です。
ただ、ここは正確にお伝えしておきます。散歩中に落ちている銀杏を丸ごと拾い食いした場合、中毒成分は硬い殻と外皮に包まれているため、噛み砕かなければ吸収されにくいとされています。つまり、丸のみのケースでは中毒よりも、殻がのどや腸に詰まる、消化管を傷つけるといったリスクのほうが心配です。また、銀杏の外種皮に触れると皮膚炎を起こすこともあります。危険度が上がるのは、殻が割れた銀杏を食べたときや、噛み砕いてしまったとき。いずれにせよ、イチョウの木の下では愛犬から目を離さないのが安心です。
なお、余談ですが、「イチョウ葉エキス」は認知機能に関わるサプリメントとして知られています。ただし人での研究でも効果には賛否があり、犬での有効性を裏づける確かな研究はまだ多くありません。「銀杏=脳にいい」というイメージで安易に与えるのは避けたほうがよいでしょう。
食品以外にもひそむ危険|生活用品・人の薬・観葉植物
「食べ物」から少し視野を広げると、家の中には、口にすると危ない”食品ではないもの”も潜んでいます。ここまで読んでくださった方には、ぜひこの視点まで持ち帰っていただきたいところです。
保冷剤・不凍液(エチレングリコール)
これは知っておく価値のある知識です。一部の保冷剤や自動車の不凍液に含まれるエチレングリコールは、甘い味がするため犬猫が好んでなめてしまい、少量でも急性腎障害を起こして命に関わります。犬より猫のほうが少量で重篤になります。ただし補足すると、子どもの誤食が問題になったことから、現在の保冷剤の多くは毒性の低いプロピレングリコールなどに置き換わっています。危ないのは主に「昔ながらの、凍らせても柔らかいタイプ」や不凍液。夏にクーラーボックスで使う保冷剤は、かじって穴が開くとすぐ中身が出るので、古いものは特に注意してください。
人間の薬
人用の薬は、犬猫にとって非常に危険なものが多くあります。特に知っておきたいのが、解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン。人ではよく使われますが、猫はこれを解毒する能力がほとんどなく、ごく少量で命に関わります。「痛がっているから」と人の薬を自己判断で与えるのは絶対に避けてください。落とした錠剤を拾い食いする事故も多いので、薬の管理も徹底したいところです。
観葉植物
散歩中の植物と同じく、家の中の観葉植物にも注意が必要です。ポトス、モンステラ、ポインセチア、アロエなどは、口にするとよだれ・嘔吐・口の腫れなどを起こすことがあります。ソテツは特に毒性が強く、重い肝障害につながる危険があります。猫は高いところにも登れるので、「届かないと思っていた棚の上」も油断できません。
その他の身近な危険物
たばこ(ニコチン)、殺鼠剤(さっそざい)、乾燥剤、電池、洗剤なども、誤食すると危険です。特に好奇心の強い子犬・子猫や、なんでも口に入れてしまう子のいるお宅では、”低い位置に置かない・フタをする”という基本の環境づくりが、いちばんの予防になります。
もう一歩深く|なぜ、人は平気で犬猫はダメなのか
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。「同じものを食べているのに、どうして人は平気で、犬や猫だけ中毒になるの?」と。この”なぜ”を知っておくと、危険食材を丸暗記するのではなく、原理から理解できるようになります。少し専門的ですが、いちばん面白いところです。
答えの多くは、「体の中で毒を処理するしくみ(代謝)の違い」にあります。
チョコレートは、その典型です。テオブロミンという成分は、人の体では比較的すみやかに分解・排出されます。ところが犬や猫は、この分解のスピードがとても遅い。だから体内に長くとどまり、少しずつ神経や心臓に効いてしまうのです。「量」だけでなく「処理の遅さ」が、犬猫での危険を生んでいます。
ネギ類は、しくみが違います。ネギ類に含まれる成分は、犬や猫の赤血球にある「ヘモグロビン」を酸化させて壊してしまいます(ハインツ小体性貧血)。人の赤血球はこの酸化に比較的強いのですが、犬や猫の赤血球は弱く、とくに猫はその感受性が高いことが知られています。同じ成分でも、赤血球の”作りの違い”が明暗を分けています。
キシリトールも面白い例です。人がキシリトールを摂ってもインスリンはほとんど出ませんが、犬ではなぜか強くインスリンの分泌が刺激され、急激な低血糖に陥ります。人と犬で、まったく反応が違うのです。
こうして見ると、「人にとって安全=犬猫にとって安全」とは限らない理由が、体のしくみのレベルで見えてきます。これは食べ物にかぎらず、薬やサプリメントを考えるときにも通じる、とても大切な視点です。
ぶどう中毒は、いま原因が解き明かされつつある
「原因がわかっていない」と紹介したぶどう中毒ですが、実は近年、有力な仮説が登場しています。それが酒石酸(しゅせきさん・tartaric acid)です。
きっかけは、酒石酸を主成分とする「クリームタータ」やタマリンドを食べた犬が、ぶどう中毒とそっくりの急性腎障害を起こした事例でした。ASPCA(米国動物虐待防止協会)の毒物管理センターが2022年に報告し、注目を集めています。酒石酸は、生ぶどう・レーズン・タマリンドに共通して多く含まれ、犬はこの有機酸を腎臓から排出する能力が弱いと考えられています。
この説は、長年の謎だった「なぜ食べた量と中毒の重さが一致しないのか」もうまく説明します。排出能力に個体差があるとすれば、同じ量でも平気な子と重症化する子がいるのも納得がいくのです。ただし、これはまだ有力な”仮説”の段階で、確定した結論ではありません。研究がいまも進んでいる、というのが正直なところです。
「加熱すれば大丈夫」も、通じないことが多い
もうひとつ、覚えておくと役立つ視点があります。それは、多くの中毒成分は、加熱調理をしても壊れないということです。
玉ねぎは煮ても焼いても毒性が残り、煮汁にも溶け出します。チョコのテオブロミンも、銀杏のメチルピリドキシンも、加熱では消えません。「火を通したから安心」という人の料理の感覚は、こと中毒に関しては当てはまらないことが多いのです。ハンバーグや肉じゃが、チャーハンなど、”調理された料理”のなかにこそ危険がひそんでいる——この意識が、日々の誤食を防いでくれます。
もし食べてしまったら|正しい対処法
どんなに気をつけていても、誤食は起こりえます。そのときのために、正しい行動をあらかじめ知っておくことが、いざという時のいちばんの備えになります。
① 自己判断で吐かせようとしない
これがいちばん大切です。よかれと思って、塩や牛乳、オキシドールを飲ませたり、口に手を入れて吐かせようとするのは、かえって命を危険にさらす行為です。誤食したものによっては、吐かせること自体が危険な場合もあります。吐かせるかどうかは、獣医師が判断することです。
② すぐに動物病院へ連絡する
「まだ元気だから」「少量だから」と様子を見るのは禁物です。特にネギ類・チョコ・ぶどう・キシリトールなどは、症状が出る前でも受診が必要です。すぐにかかりつけへ連絡し、夜間や休日なら救急対応の動物病院を探して電話してください。
③ 「何を・どれだけ・いつ」を伝える
獣医師が処置を判断するために、この3つの情報がとても重要です。食べたもののパッケージや残り、可能なら実物を持っていきましょう。「これくらいの量が減っていた」という現物があると、量の把握に役立ちます。
④ 様子を記録しておく
嘔吐やふるえなどの症状があれば、その様子をメモや動画で残しておくと、診察の助けになります。
万が一に備えて、かかりつけの連絡先と、夜間救急動物病院の電話番号を、すぐ見えるところに控えておくことをおすすめします。慌てている時ほど、この”ひと手間の備え”が効いてきます。
小さな体ほど、少量が危険
最後に、忘れたくない視点をひとつ。ここまで「中毒量の目安」をいくつか紹介してきましたが、体が小さい子ほど、同じ量でも危険度が跳ね上がります。
体重2kgの小型犬と、体重30kgの大型犬とでは、同じひとかけらのチョコレートでも、体への影響はまったく違います。子犬・子猫、シニア、持病のある子も、中毒の影響を受けやすく、症状が急速に進みやすい傾向があります。「これくらい大丈夫」という感覚は、その子の体の大きさによって変わる、ということを心に留めておいてください。
まとめ|知っていることが、いちばんの予防になる
犬・猫が食べてはいけないものは、玉ねぎやチョコだけではありません。ぶどうやキシリトールのように少量で命に関わるもの、マカダミアナッツのように意外と知られていないもの、アボカドのように専門家でも意見が分かれるもの、そして猫にとってのユリのように、食べ物以外にも危険はひそんでいます。
そして、それぞれ体の中で起きることが違います。ネギ類は赤血球を壊し、チョコはカカオが濃いほど危なく、ぶどうは量の個体差が大きく、キシリトールは犬でごく少量が効いてしまう。この「なぜ」を知っておくと、危険を”自分ごと”として避けられるようになります。
大切なのは、「その食べ物が丸ごとNG」と暗記することより、危険が”部位・状態・量”で変わることを知ること。いか・えび・貝のように、生はダメでも加熱して少量ならよいものもあります。そして危険は食べ物だけでなく、散歩道の植物や、保冷剤・人の薬といった身近な生活用品にもひそんでいます。
もし食べてしまっても、自己判断で吐かせず、すぐに動物病院へ。「何を・どれだけ・いつ」を伝える。この流れを覚えておくだけで、いざという時に落ち着いて動けます。
誤食は、飼い主さんの不注意というより、犬や猫が「食べることが大好きな、好奇心いっぱいの生き物」だからこそ起こるものです。彼らは、大好きな家族が口にしているものを、自分も食べたいと思うだけ。その無邪気さを守ってあげられるのは、正しい知識を持った私たちだけです。今日知ったことが、この先ずっと、その子の安全を静かに支えてくれます。
※中毒量の数値はあくまで一般的な目安であり、個体差が大きいものです。「この量までは大丈夫」という基準としてではなく、「少量でも危険」という前提で捉えてください。誤食が疑われる場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
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