「お散歩」「ごはん」って本当に分かってる?|犬の“言葉の理解”
「お散歩」と言っただけで、しっぽを振って玄関へ向かう。「ごはん」の気配を感じると、寝ていた愛犬がすぐ起きてくる。何気ない会話を聞いて、こちらを見上げる姿に、「ちゃんと分かっているのかも」と感じることはありませんか。
犬は、毎日の言葉、声の調子、表情、動き、暮らしのリズムをたくさん受け取っています。人とまったく同じ方法ではなくても、飼い主さんとの経験を重ねながら、その子なりの“ことば”を育てているのかもしれません。
この記事では、犬が言葉の音と出来事をどう結び付けているのか、声のトーンとの関係、そして家族だけの共通語を増やしていく楽しさを紹介します。
犬は“音”だけを覚えているの?
犬は、「ごはん」「散歩」「おいで」のような特定の音と、そのあとに起こる出来事を結び付けて学べます。繰り返し聞く言葉は、犬にとって毎日の楽しみや安心につながる目印になっていきます。
2024年には、音声ボタンを使う練習をしている家庭犬を対象にした研究が発表されました。飼い主さんではない人が、ボタンから「遊ぶ」「外へ行く」に関係する言葉を流しても、犬たちは内容に合った行動を示しました。飼い主さんの身振りや表情がない条件でも反応したことから、少なくとも一部の犬は、音声そのものと出来事を結び付けていると考えられます。
この研究は、音声ボタンの言葉を日常的に学んでいた家庭犬で確認された結果です。犬が身振りだけでなく、言葉の音そのものを手がかりにできることを示す、興味深い結果といえます。
犬は、言葉と声の調子を両方聞いている
犬へ「いい子」と明るい声で伝えると、言葉と声の調子がそろいます。一方で、褒め言葉を低く平坦な声で言った時も、犬は何か違いを感じ取っているかもしれません。
犬の脳をfMRI(エフエムアールアイ:脳の活動を画像で調べる方法)で調べた研究では、犬が言葉の意味に関わる情報と、イントネーションに関わる情報を別々に処理している可能性が示されました。褒める言葉と褒める声の調子がそろった時には、報酬に関わる脳の領域がより反応しました。
つまり、犬は「何を言ったか」と「どう言ったか」の両方から、私たちの気持ちや次に起こることを受け取っているようです。やさしい言葉とやさしい声を重ねることは、犬にとってもうれしいコミュニケーションになるでしょう。
特別に高い声で言わなくても、聞き分けられる?
2025年の研究では、飼い主さんが平坦な調子で文章を読んでいる途中に、犬の名前と「おいで」のような意味のあるフレーズを混ぜると、犬が飼い主さんへ注意を向けることが確認されました。
犬に向ける時の明るく高めの声は、注意を引きやすく、反応を強める助けになります。それでも、犬はいつもの声色ではない文章の中から、意味のある音の並びを拾える可能性があります。
明るく高めの声は犬の注意を引きやすく、普段どおりの声にも、犬が聞き取っている言葉があるかもしれません。毎日の暮らしの中で同じ言葉と出来事を重ねることが、犬にとって大切な手がかりになります。
「おすわり」と「ボール」は、少し違う
「おすわり」「待て」「おいで」は、次にしてほしい行動を伝える合図です。練習を重ねれば、多くの犬が学べます。
一方で、「ボール」「くまさん」「ロープ」のように、物そのものの名前を覚え、名前だけを聞いて選ぶことは別の力です。一般的な家庭犬で、複数のおもちゃの名前を安定して聞き分けられる犬は多くありません。
行動の合図と物の名前は、犬にとって少し違う学びです。得意な学び方は犬によってさまざまで、「おいで」が得意な子、お気に入りのおもちゃを覚える子など、それぞれの個性があります。
何十個ものおもちゃの名前を覚える犬もいる
なかには、物の名前を特別に多く覚えるGifted Word Learner(ギフテッド・ワード・ラーナー:GWL)犬と呼ばれる犬がいます。
2023年の研究では、41頭のGWL犬が調べられました。検査では、平均29個、最も多い犬で86個のおもちゃの名前を聞き分けました。その後の飼い主さんへの調査では、100個を超える名前を覚えたと報告された犬もいます。
何十もの名前を覚える姿には驚かされますが、愛犬が家族との暮らしの中で覚える一つひとつの言葉も、同じように大切な積み重ねです。
“同じ遊び方のもの”として言葉を広げる犬も
2025年には、GWL犬7頭が、見た目の違うおもちゃを「引っ張る遊び用」「投げて持ってくる遊び用」のように、使い方の共通点で分けられることが報告されました。
新しいおもちゃの名前を一つずつ教えなくても、それまでに学んだ遊び方の言葉を、新しいおもちゃへ当てはめられたのです。物の見た目だけでなく、どう使う物かという共通点を手がかりにした可能性があります。
言葉をたくさん覚える力が高い犬では、音と一つの物を結び付けるだけでなく、遊び方の共通点まで受け取っている可能性が見えてきています。
「ごはん」と言っていないのに分かるのはなぜ?
犬は、言葉に加えて、冷蔵庫を開ける音、食器を出す音、いつもの時間、飼い主さんが靴を履く姿、リードを持つ動きなど、たくさんの情報を見て聞いています。
「ごはん」と言っていないのに反応した時は、毎日の流れをよく観察し、次に起こる楽しいことを予測しているのかもしれません。言葉と暮らしの手がかりを結び付けられることも、犬のすばらしい力です。
家では「おすわり」ができるのに、外では反応しにくいこともあります。外にはにおい、音、ほかの犬など、犬にとって気になる情報がたくさんあります。落ち着いた場所から少しずつ練習することで、覚えた合図をさまざまな場面で使いやすくなります。
言葉を分かっていても、周りの環境によって反応は変わります。犬の気持ちと集中しやすさを見ながら伝えることも、会話の一部です。
家族の“共通語”を作ろう

犬に何かを伝えたい時は、最初は短く、一つの合図にそろえると学びやすくなります。
たとえば呼び寄せる時に、「おいで」「こっち来て」「Come」「早く」と家族が毎回違う言葉を使うより、まずは一つを共通の合図にします。できた時に褒めたり、楽しいことが起こったりする経験を重ねると、その言葉は犬にとって分かりやすい目印になります。
途中で言葉を変えることもできますが、その場合は新しい合図として少しずつ教え直しましょう。日本語か英語かよりも、音のパターンと経験が一貫して結び付くことが大切です。
犬の名前は、“自分自身”だと分かっている?
犬は自分の名前を呼ばれると、こちらへ注意を向けることを学べます。名前は、飼い主さんが自分へ声をかけてくれたことを知らせる、大切な音になっているのでしょう。
名前の音が聞こえると、「自分へ何かが起こるかもしれない」「飼い主さんがこちらを見ている」と受け取っている可能性があります。名前を呼んだ時に耳を傾けてくれる姿は、毎日のやり取りで育った大切な反応です。
まとめ|言葉を重ねて、家族だけの共通語を増やそう
犬は、声のトーンだけでなく、意味のある音の並びを聞き分け、言葉と出来事を結び付けて学んでいます。
「お散歩」「ごはん」「おいで」といった毎日の言葉だけでなく、表情、動き、生活のリズムまで、犬はたくさんの手がかりから飼い主さんを見ています。
毎日何気なく話しかけている言葉の中にも、愛犬が少しずつ覚えているものがあるのかもしれません。言葉と表情と行動を重ねながら、お互いだけに分かる“共通語”を増やしていけることは、一緒に暮らす大きな楽しさのひとつです。
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