レジスタントスターチって知っていますか?|「冷ますと腸にいいでんぷんに変わる」ふしぎな話
炊きたてのごはんと、冷めたごはん。同じお米なのに、体の中でのはたらきが変わる——そう聞くと、少し不思議に思われるかもしれません。
けれどこれは、近年の栄養学でよく知られるようになった事実です。カギを握るのがレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)と呼ばれる成分。名前のとおり「消化に抵抗する(resistant)でんぷん(starch)」で、小腸で吸収されずに大腸まで届き、そこで食物繊維のようなはたらきをしてくれます。
腸内環境を整えることが、犬や猫の健康を支える土台になる——このことは、これまでのコラムでもお伝えしてきました。レジスタントスターチは、その腸を育てる心強い味方のひとつです。しかも、ちょっとした調理の工夫で増やすことができます。
この記事では、レジスタントスターチがどんな成分なのかという基本から、腸と血糖値の両面から見た魅力、そして愛犬・愛猫のごはんに取り入れるときの工夫と注意点まで、順を追って解説していきます。
レジスタントスターチって、どんな成分?
ふつうのでんぷんは、小腸で消化酵素によってブドウ糖に分解され、エネルギーとして吸収されます。ところが同じでんぷんでも、この分解を受けずに小腸を通り抜けてしまうものがあります。それがレジスタントスターチです。
行き先は大腸。ここで腸内細菌たちのエサになり、発酵を受けます。でんぷんでありながら、体の中では食物繊維のようにふるまう——これがレジスタントスターチのいちばんの特徴です。
食物繊維には、水に溶ける「水溶性」と溶けない「不溶性」があり、それぞれ得意分野が違います。おもしろいことに、レジスタントスターチは水溶性が持つ腸内環境の改善や血中脂質を下げるはたらきと、不溶性が持つ排便を促すはたらきの両方を持つと報告されています。いわば「いいとこ取り」のような存在です。
腸を育てる|短鎖脂肪酸と酪酸のはたらき
レジスタントスターチが大腸に届くと、腸内細菌がそれを発酵させ、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という物質を生み出します。酢酸、プロピオン酸、そして酪酸(らくさん)などがその代表です。
レジスタントスターチは、発酵性の食物繊維のなかでも特によく発酵される「高発酵性」のグループに入り、なかでも酪酸をたくさん生み出すことが知られています。この酪酸が、腸にとってとても大切なはたらきをしてくれます。
大腸の細胞のエネルギー源になる
酪酸の多くは、大腸の上皮細胞(じょうひさいぼう:腸の内側を覆う細胞)のエネルギーとして使われます。そのエネルギーが腸のぜん動運動に使われ、便通を促してくれます。腸そのものを養う栄養、というイメージです。
腸内を弱酸性に保つ
短鎖脂肪酸がつくられると腸の中が弱酸性に傾きます。この環境では悪玉菌が増えにくくなり、結果として善玉菌が優勢な、バランスのよい状態を保ちやすくなります。
腸は栄養を吸収する入り口であり、免疫のはたらきにも深く関わる場所です。その腸そのものを育ててくれるという意味で、レジスタントスターチは腸活の心強い味方といえます。
もうひとつの魅力|血糖値の上がり方をゆるやかに

レジスタントスターチには、腸とは別のうれしい側面もあります。それが、血糖値の急な上昇をおだやかにするというはたらきです。
理由はシンプルで、レジスタントスターチは小腸で分解・吸収されないため、その分だけ小腸から取り込まれる糖の量が減るからです。同じ量のごはんやいも類でも、レジスタントスターチが多い状態なら、体への糖の入り方がゆるやかになる、というわけです。
このほか、血中のコレステロールや中性脂肪を下げるはたらきも報告されています。
※ これらは主に人を対象にした研究で報告されている内容です。犬や猫でまったく同じように起こるとは限らないため、あくまで参考として捉えてください。また、糖尿病などで食事管理をしている子の場合は、必ずかかりつけの獣医師の指導に従ってください。「冷ましたごはんなら安心」という考え方は当てはまりません。
4つのタイプと、「冷ますと増える」ふしぎ
レジスタントスターチは、消化されにくい理由の違いによって4つのタイプに分けられます。
| タイプ | 消化されにくい理由 | 食品の例 |
|---|---|---|
| RS1 | 硬い組織に包まれ、消化酵素が届かない | 全粒穀物、豆類、種子 |
| RS2 | でんぷん粒子そのものが消化されにくい構造 | 未熟なバナナ、生のじゃがいも |
| RS3 | 加熱後に冷えて再結晶し、消化されにくく変化 | 冷ましたごはん、いも類 |
| RS4 | 加工によって消化されにくくした人工的なもの | 加工食品に使われるでんぷん |
このなかで、いちばん身近で取り入れやすいのがRS3です。
加熱して、冷ます。それだけ
一度加熱されてやわらかくなったでんぷんが、冷めていく過程で一部が再結晶し、消化されにくい構造に変化します。「老化でんぷん」とも呼ばれる現象ですが、老化といっても悪いことではなく、腸にとってはむしろうれしい変化です。
生成に適した温度は0〜4℃とされ、時間をかけて冷ますほど増えていきます。冷蔵庫でしっかり冷やすのが効果的ですが、炊きたてのごはんを室温で1時間ほど冷ますだけでも増えるという研究もあります。特別な材料も手間もいらない、というのがうれしいところです。
なお、RS2は熱に弱く、加熱すると普通のでんぷんに変わってしまいます。人向けの情報では「生のじゃがいも」がRS2の代表としてよく挙げられますが、これは犬猫には当てはめられません(後ほど詳しくお伝えします)。
愛犬のごはんに取り入れるには
手作りごはんやトッピングでいも類・穀類を使っている方なら、ちょっとした工夫で取り入れられます。
基本は「加熱してから、冷ます」
さつまいも、かぼちゃ、じゃがいも、ごはんなどをしっかり加熱したあと、時間をかけて冷まします。冷蔵庫でひと晩置くとしっかり生成されます。
でも、冷たいまま与えないでください
ここが大切なポイントです。冷えたごはんをそのまま与えると、お腹を冷やしてしまいます。食べる1時間ほど前に冷蔵庫から出して、常温に戻してからあげてください。うれしいことに、一度できたRS3は常温に戻す程度では大きく減りません。「しっかり冷やす → 常温に戻す」で、腸へのメリットとお腹へのやさしさを両立できます。
ドライフードをふやかすときに、前日から冷蔵庫で準備しておく方法をご紹介したことがありますが、あの手順もまさにこの条件にあてはまります。手間を減らす工夫が、そのまま腸のためにもなっていた——というわけです。
量は控えめに、少しずつ
いも類やごはんは、あくまでトッピングや副菜の位置づけです。主食は総合栄養食やバランスの取れた手作り食で、そこに少量を添えるくらいがちょうどよい量です。初めて与えるときは、ごく少量から始めて、便の様子を見ながら調整してあげてください。
猫の場合は、少し事情が違います
ここまで犬を中心にお話ししてきたのには理由があります。猫は完全肉食動物で、でんぷんの消化は犬ほど得意ではないからです。
猫の体は、肉から効率よく栄養を得るようにできています。炭水化物を多く摂る必要はなく、むしろ控えめにしたほうがよいと考えられています。特に糖尿病の食事管理では、炭水化物を控えることが基本になるため、「冷ませば大丈夫」という発想は当てはまりません。
猫の腸内環境を整えたいときは、でんぷんに頼るよりも、消化を助ける成分や善玉菌、動物性の素材から摂れる食物繊維など、猫の体に合った方法を選んであげるほうが自然です。もし取り入れるとしても、ごく少量にとどめて、その子の様子をよく見てあげてください。
取り入れるときの注意点

安心して続けていただくために、いくつか知っておいていただきたいことがあります。
生のじゃがいもは、絶対に与えないでください
人向けの記事では、RS2を多く含む食品として「生のじゃがいも」がよく紹介されます。けれど生のじゃがいもや芽・緑色の皮には、犬猫にとって有害なソラニンなどの成分が含まれます。嘔吐や神経症状を引き起こすことがあり、危険です。じゃがいもは必ずしっかり加熱し、芽と緑色の部分を取り除いてから使ってください。人にとって良いとされる方法が、そのまま犬猫に当てはまるとは限らない——その典型的な例です。
与えすぎると、お腹がゆるくなることも
レジスタントスターチは腸内でよく発酵するぶん、量が多すぎるとガスがたまったり、便がゆるくなったりすることがあります。「良いものだからたっぷり」ではなく、少量から様子を見るのが安心です。
カロリーはしっかりあります
消化されにくいとはいえ、いも類やごはんはエネルギー源です。トッピングを増やしたぶん主食を調整しないと、体重が増えてしまいます。適正体重を保つことは、それだけで大切な健康管理です。
持病がある子は、獣医師に相談を
糖尿病、膵炎、腎臓病など、食事管理が必要な病気がある場合は、自己判断で取り入れず、必ずかかりつけの獣医師に相談してください。その子の体を実際に診てくれている方の言葉が、何よりの道しるべになります。
まとめ:ひと手間が、腸へのやさしさになる
レジスタントスターチは、小腸で消化されずに大腸まで届き、食物繊維のようにはたらくでんぷんです。腸内細菌に発酵されて短鎖脂肪酸、とくに酪酸を生み出し、その酪酸が大腸の細胞のエネルギーとなって腸を支えてくれます。さらに、小腸から吸収される糖が減ることで、血糖値の急な上昇をおだやかにするはたらきも知られています。
そして何より魅力的なのが、加熱して冷ますだけで増やせるという手軽さです。特別な材料も、難しい手順もいりません。ただし冷たいまま与えるとお腹を冷やしてしまうので、常温に戻してからにしてあげてください。
同時に、忘れたくないこともあります。生のじゃがいもは犬猫には危険であること。与えすぎるとお腹がゆるくなることがあること。猫は完全肉食動物で、でんぷんとの付き合い方が犬とは違うこと。そして持病のある子は、獣医師と相談しながら進めてほしいということ。
ごはんを冷ます、たったそれだけのひと手間。けれどその小さな工夫の裏には、「この子の腸を、少しでも元気に保ってあげたい」という気持ちがあります。毎日のごはんを用意する時間は、その子の体を思う時間でもあります。今日の一皿が、明日のその子の元気につながっていきますように。
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